むかしむかし。
まだ魔女がいた時代。
数少ない彼らがひっそりと身を隠すように生きていた。
そして彼女もまた、その中のひとりだった。
ただちょっと、異端の中の異端であっただけ。

深森 樹は森に囲まれた学校に通う、普通の少女。
森の中を歩き回るのが好きだとか、一匹狼だとか、樹木バカだとか、そういうちょっとした個性を持ち合わせているくらいで、魔法を使えたり空を飛んだりなんてことは出来ない普通の人間の少女だった。
ただひとつ特異な点があるとすれば、それは樹木の精霊が見えることくらい。
しかし精霊が見えるのは、学校の近辺の森だけで、人の手の入っていないような山の中にいたとしても、他所ではそんなものは見えはしなかった。
樹はそれを不思議に思った。
……が、考えても結論なんて出ないことにすぐ気がついてからはあっさり考えるのをやめた。

そんな普通の少女の身に、ちょっと普通じゃない出来事が起こったのである。

春。休み明けに登校した樹は驚いた。
周囲の森の木々の芽が開き新緑が顔を出し、野は青く、何と花まで咲いている。
樹の住むこの北方の地は、春とはいえまだ寒く、木々に葉もついてないような状態が普通だ。
だからこれは明らかにおかしい、そう樹が思った時だった。

「ねえ大変なんだよ!何か変なんだって!」

どこからともなく飛んできたカツラの木の精霊・木香ちとせ。
まだ精霊として若いからか、ちょっとおバカなそれは好奇心旺盛で、普段から何かとみもりに付きまとってくる。

ちとせはこの森の異常事態を、力を貸すから一緒に調査して欲しいと言った。森に棲む他の精霊たちの様子も何だか変なのだと言う。
樹にとってもこの森は自分の遊び場のようなもので、何が起きているのかは気になった。
こうして、樹はちとせと共に異変調査に森へと向かったのだった。

このとき樹は
思っている以上にとんでもなく、
思っている以上に小規模な事実を知ることになるとは
思いもしなかった―――

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